治療したはずの銀歯の周りには虫歯ができやすいです

患者様「虫歯ができたみたいなのですが、どこかわからないんです」

Aさんは、ずいぶん前に治療した奥歯の銀歯が、最近しみるようになってきました。

きっとむし歯に違いない…と思い、久しぶりに歯科を受診されました。

最初に撮影したのがこの写真です、一見、見た目むし歯になっているような黒い穴などはありませんね。

銀歯でできているインレー

レントゲンを撮って見ると…

続いてレントゲンを撮りました。右下の奥歯の銀歯の下に虫歯と思しき黒い陰影がありました、

下の写真の矢印部分が少し黒くなっているのが分かりますでしょうか。

これが、一般的に柔らかい神経組織や虫歯になって柔らかく溶かされ始めている組織などです。

※レントゲン上では白く抜けて見えるのは、銀のインレーです。硬い物は白く写ります。

レントゲンにも映るレベルの銀歯の下の2次カリエス
むし歯になっていないのであれば、矢印の部分は通常のレントゲン像では黒くなっていない部分

Aさんも

最近そのあたりで歯磨きの際にデンタルフロスが引っかかるようになってきていた。なので、きっとむし歯になっているのではないかな…と思っていました。

とのこと。

それでは麻酔をしてから、銀歯をはずして、その下にできてしまった虫歯を取り除く治療をしましょう

ということになりました。

そこまでで、Aさんにとってはしみる原因もご理解いただき、虫歯の場所も特定できました。

銀歯を着けなおすと、銀歯の部分は増えてしまいます

Aさんはこの時、

先生、その銀歯、今入っているインレーと呼ばれる、はめ込むタイプの大きさですよね。今回やりかえた場合も当然今と同じくらいの大きさですむのですよね

とおっしゃいました。

本来そうありたいところではありますが、恐らくもっと大きく銀歯の部分が増えますね…
そうなんですね…
先生、あまりたくさん削られて銀歯が見えるようになると嫌な。なので、何でもないところはなるべく削らないようにお願いしたいのですが…

1箇所虫歯になっていると他の箇所も虫歯がある事が多い

確かに何でもない歯の部分は極力削らないで残していこう、という考え方はミニマルインターベンションと言って正常な組織の侵襲を極力避ける、という最近の主流ではあります。

ただし、一見何でもなく見えても実はそこにむし歯がある、ということが少なくないことをご存じですか?

今のAさんの歯は、銀歯の後ろ側の歯の下との隣接面に、虫歯ができてしまっています。

そして、一見手前の隣接面(矢印の部分)は何ともないように見えますが、上から強い透過光を当て拡大鏡でよく見ると、むし歯になっているのが透けて見えます。

おそらく間違いなく手前の隣接面の一見なんでもなく見えるところ(矢印)もその下の部分はむし歯になっていると思いますよ...
ということは、きっとそこの今銀歯でないところも削られて今度はクラウンタイプの大きなかぶせ物の銀歯になってしまうのですね
残念ですが、その通りです

Aさんは銀歯が見える大きなものになるのがよほど嫌ならしく、「保険のきく銀歯以外のかぶせ物とかはないのでしょうか?」と聞いてこられました。どうやらAさんは、健康保険では奥歯は銀歯、と昔から聞いていた。なので、今回もそれしかないと思っておられるようでした。

奥歯のかぶせ物には銀歯しかないのか?

しかし今は実はいろいろあります。

ここ数年前から、樹脂を機械で削りだして作る「CAD/CAM冠という」白いかぶせ物を、健康保険内でも、入れることができるようになりましたよ。
下顎の第一大臼歯だと、左右上下とも歯がそろっていて、噛み合わせがしっかりとしている場合に限りますが、Aさんなら大丈夫だと思います。

とお伝えしたところ、ほっとした様子で、

それでは銀歯ではなく、その樹脂を削りだして作る保険のきくCAD/CAM冠でお願いします

とのことで話は終わって、治療が開始されました。

隠れていた虫歯を見つけていく過程

最初に入っていた銀歯をはずされただけの状態。

黒く穴は開いていないが下の方で黒く透けて見える隣接面カリエス
通常穴があいていない。なので、上からちょっと見ただけでは虫歯がまだ別の場所に残されているとは気づかれないことが多い

このあとさらに手前の歯との隣接面に虫歯(図矢印の部分)があるのでそこを削り始めます。

黒くむし歯になっているところが見えてきました。手前の隣接面の部分も削られた途中の状態。

両隣接面が削られて黒く見えるカリエス
隣接面部分には黒いカリエス(むし歯)部分がまだ残っているのが観察される

虫歯になっている両隣接面の黒い部分はこのあと、さらにピンポイントで黒い部分を削り取られて歯の形成は終了となりました。

その後通常通り型どりをして、後日クラウンタイプのCAD/CAM冠と呼ばれる樹脂の白いかぶせ物が無事セットされて治療は終了となりました。

健康保険の白い樹脂のCAD/CAM冠が使える条件とは?

健康保険では今まで大臼歯に使えるのは保険内では銀歯だけという時代がありました。しかし現在では一定の条件がそろえば下顎の第1大臼歯までは、白い樹脂でできたCAD/CAM冠というかぶせ物が入れることができるようになりました。

健康保険で使われるCAD/CAM冠
樹脂のブロックを機械が削り出して作ります。

その条件とは、

  • 上下の大臼歯4本が全て存在していて咬合が安定している場合

です。保険適応できる場所は、大臼歯に関しては下顎第1大臼歯までで、上顎の大臼歯と、下顎の第2大臼歯には、適応されません。

なお、既に金属アレルギーの既往もあって、医師からの金属アレルギーの診断証明書をお持ちいただくと、例外として健康保険でも現時点の制度下でCAD/CAM冠が上顎大臼歯でも認められています。

おそらく保険点数改正に伴い、今後このあたりの規定や部位などの縛りは、もっと減ってくるものと思われますが、あくまで現時点では以上のような取り決めとなっています。

奥歯のかぶせ物は大きく分けて3種類

今回、Aさんは、白い歯ご希望で、しかも健康保険で、という要件を重視されていた。なので、結果的にCAD/CAM冠となりました。

しかしもちろん、従来からの銀歯も使えます。

銀歯の利点と欠点

銀歯はとにかく金属ですからすり減りにくいですし

  • 金属ですので強い
  • 経年変化で黄ばんでこない
  • 耐久性も一般的に高い

です。

そのため例えば、歯ぎしりが強くて氷など硬いものもよく噛むからとにかく強度を重視したい、と考える方は金属のかぶせものを選択されます。

但し、他のコラムでも書いていますが欠点があります。

保険で入れることのできる銀歯とは銀とパラジウム、亜鉛、金、などの合金の金属であるために、酸化黒変しやすいのです。

2次う蝕ができている場所の説明
汚れがたまっていない場所では2次う蝕は起きにくいが、汚れがたまりやすい隅っこやコンタクトの下のあたりは2次う蝕のハイリスクな場所と言えます。

口腔内を絶えず清潔に保てている方の場合は、銀歯でも当面問題はありません。

口腔内が清潔に保たれにくい方の場合、銀歯だと再度いつの日か酸化腐食して黒くなって、再度2次カリエスの温床となり再治療となってしまう方がかなり多くいるというのもまた事実です。
また、この腐食部分が実は今まで金属アレルギー症状が出なかった方も含めて金属アレルギーを引き起こす原因となることが多数報告されています

花粉症デビューならぬ金属アレルギーデビューを、まさか自分の知らぬうちに引き起こしていた原因が実は銀歯だった…という話もあるのです。

銀歯の2次う蝕で黒く溶けてきた歯
プラークコントロールのできていない口腔内において、銀歯と歯の境目からの2次う蝕は非常に発生しやすい。それを予防する為にも銀歯の歯茎との境目はいつも清潔にしておくことが重要となってくる。
抜歯された歯から読み解く銀歯と歯の境目からの2次う蝕
銀歯との境目から虫歯が発生したと思われる状態

実はピアスやイヤリングでかぶれやすいと思われている方、一度お口の中に昔治した虫歯治療の際に金属で治されていないか確認されてみるのはいいことです。

ご自身でどういった素材で何を入れるかは、こういった事情をよくご判断の上お決めになっていただければといいと思うわけです。

保険外で使える素材のメリットとは

では、すべての条件を満足した良質なかぶせものはないのか?健康保険の縛りにはとらわれずに、とにかく長期的に口腔内環境に左右されずに黒く酸化腐食もしないで、しかも金属のように強い耐久性のある白いかぶせ物はあるのでしょうか。

そういった方のために、自費でいれることのできるジルコニア(Zr₂O)という素材が現在奥歯では主流となりつつあります。よくセラミック(SiO₂)と呼ばれている従来の陶材とは違います。

ジルコニアの特性

ジルコニアは優れた物性を持っていて、

  • CAD/CAM冠の樹脂素材のように、経年劣化で黄ばんできたりしない
  • 表面もつるつるなのでプラークやステインはいつまでも付きにくい
  • 金属と同程度に硬いので耐久性はずっと上

(参考価格:ジルコニアは自費治療で10万~15万 税別)

ジルコニアは金属を使わない歯の素材の中では、現在最も硬く安定性の高い素材です。

自分の歯の部分をなるべく残して、かぶせてしまうクラウンタイプにどうしてもしたくない、何とかインレータイプで修復してもらいたい、しかも歯と同じ色の素材で…という方もいらっしゃるでしょう。

その場合には、この部分に、ジルコニアのインレーかセラミックのインレーをはめ込むとよいです。

インレータイプであってもジルコニアやセラミックは自費の素材(9万円)税別の金額がかかりますが、それだけのメリットがあるんですね。

かぶせ物をどうするかは、医者任せにせずしっかり考えましょう

このようにかぶせ物になる場合、ご自分の口腔内に最終的にどんな素材でどんなものが入るかを、きちんと考えることをお勧めします。

  • どんな素材が有り、どんなメリットがあるか
  • 外からどう見えて、経年変化でどうなるのか

ということを、実際に入れられる前に決めていただく必要があります。

なぜなら、それによって治療の仕方やアフターケアも変わってくるからです。当然費用もですね。

歯科治療は日進月歩、新しい素材が保険外保険内関わらず増えています

冒頭での今回のAさんとの会話は、私が毎日行っている臨床の中でもとても多い会話の一例なんです。

先のことを考えてみなさまの成果の質を良くしたい私達としては、歯科のユニットチェアーに座って、ただむし歯を治療してください…というだけでは、まだ動けません。

虫歯治療によってどんな素材のどんな大きさのかぶせ物があなたの口の中に入るのか、そしてそれはいくらかかるのか、保険がきくのかきかないのか、など、みなさまのご要望は様々です。

スタッフがいろいろなことを事前におうかがいさせていただくのはその為なのです。

当院では小冊子をお配りしています

当院では、虫歯以外にもさまざまな歯科の本当の情報を始めの段階で皆様になるべく知っていただきたいために、お越しになられた方全員に歯科に関しての当院オリジナルの詳細な小冊子を渡ししております。

インプラント、矯正、ホワイトニング、入れ歯、噛み合わせについての不具合など様々な歯科の疑問を皆様の知りたい情報を満載しております。

これからも歯科の素材や現状の制度は日々変化していきます。当院では真の情報を常にアップデートできるように、今後とも取り組んでまいります。

真剣に今だけではなく未来を考えて治療されたい方は、きっとお役に立てるかと思います。

お気軽にご相談下さいませ。