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私たちは日常のあらゆる場面で、絶えずいろいろなことを選択をしながら生きています。

必ずしもあなたがそれを意識しようとしまいと選択をしているのは事実です。

たとえばそれは朝起きた時から始まっています。もうあと5分寝ていようかな、とか今すぐ起きようかな、から始まって今日は何を着ていこうかな、SNSのチェックを今しようか付き合いのやつばかりなので後にしようか、朝は何を食べようかな、昼は?そして夜は?電車に乗るときあそこの席に座ろうかどうしようかとか、今ここで何かを飲もうかどうしようか、トイレに今いこうか、などなど、こうした日常の選択は絶えず無意識かつ瞬時です。しかもそのほとんどは自分のことで、毎日のことですので、いちいち後になって悔やむことなどそう多くはないでしょう。ところがこれがこと、仕事となると一変します。

あの時あの場面で提案をしておけばよかったかな、とかあの報告書についてもう少し説明しておけばよかったかなとか、部下にあの時あの一言を言っておけばよかったかな、などなど、あとになっても仕方ないにもかかわらず、いろいろと考えこんでしまった経験はきっとあなたにもあるはずです。

自分で言うのもなんですが、歯科医師の仕事もそんなシビアな選択を絶えず迫られる機会の多い職業です。

つい先日、虫歯治療ではじめてこられた60代の男の患者さんから

「先生にすべてお任せします、保険の範囲で先生の考える最善の方法でどうか治してください」

という、オファーをいただきました。虫歯治療も、基本教科書的には治し方は確立されてはいますが、おそらくその先生の考え方や治療における裁量といったことまで考えますと、かなり多くの選択肢となるからです。

例えば、一般的な虫歯の治療について考えてみましょう。

虫歯を削った時に、確実に悪いところを削り取ることでいわゆる虫歯の取り残しはなく、それがよいのは事実です。

ところが多くの歯質を削られたせいで、逆にいつまでもしみてしまう知覚過敏状態が続き、虫歯の治療する前はほとんどしみなかったのが治療後に逆にかえってしみるようになってしまった…..といって文句を言われる患者さんも中にはいらっしゃいます。

中には、他院ですでに虫歯治療され終了したはずの方も来られてよく次のような訴えをされます。
「つい最近治してもらったはずなのに、しみてしょうがないので、もうその先生のところには行きたくないのでこちらで診てほしい」
とのこと。

きっとその先生も説明の言葉足らずで、もしかしたら一時的には神経が過敏となることがあります…くらいの説明が事前にあれば誤解はなかったのかもしれませんよね。

でも確かに悪いところをとりきって治したはずなのに、何でまだしみるの?という疑問は至極当然出てくる疑問です。
話は脱線しますが、神経に近いところまで侵襲を受けた神経は回復しようとするまでに時間がかかります。

歯は外来刺激を受けると、神経が防御反応して2次象牙質を作るが、できるまでに時間がかかる

そうなってしまう事態をきらうあまり、先生によっては、本当は神経を取らなくてもよかったかもしれない歯の神経を最初からとってしまうこともあるかもしれません。患者さんから嫌われる勇気を出さずに、ただ痛くないのならそれでいいと割り切って神経を取ってしまう…..
当然そうすることでしみるという感覚はなくなりますので、患者さんによっては単純に痛くなくその時点では治ってうれしいと思うかもしれません。

つまり、歯科医師は虫歯をとる作業一つとっても、どれくらいの量の虫歯をとるのかということくらいでかなり迷うところがあるのです。
取り除く作業以外にも、少ない削除量でもなんとかかぶせ物が外れにくく安定しやすい削り方にしたり、その設計で強度が保てるかなどいろいろと考えてしまいます。かぶせてしまうクラウンタイプの補綴物一つとっても、歯茎との立ち上がりより上にするのか下の方につなぎ目が見えなく設定するのか、など設計方法も違ってきます。

虫歯に侵された部分と虫歯の細菌に完全には侵されてはいないが、必ずしも正常な歯質とはいえない部分がボーダーラインでは存在します。
透明象牙質と言って、私たちはこの部分は再石灰化して治る部分と昔から教えられてきました。

その後、なるべく歯の歯質を削らないで治療していこうとする、ミニマルインターベンションという考え方が出てきました。それまでガンガン歯質を削ってしまい、かぶせものにしてしまうという風潮に一石を投じたわけです。

但しこれとて、あまり歯質を削らないでインレータイプと呼ばれる、歯質にはめ込むタイプの補綴物にしたせいで、逆に強い噛み癖のある方の場合には、歯とかぶせ物のつなぎ目から、長期的には歯に「ひび」や「かけ」ができて結局フルカバータイプのクラウンというかぶせ物になってしまうことも多々あります。それなら最初から歯質を全周削ってフルカバータイプのクラウンにしておけばよかったのでは?という意見も当然出てくるでしょう。

「穴が少しあいただけの小さな虫歯だと思って治療に行ったのにずいぶん大きく削られて全体的に銀のかぶせものになってしまった…」
とか、「神経まで取らなくても良かったはずなのに以前行ったところでは神経まで取られてしまった…」など、当院に来られて、その不満とも思える発言を聞かされることも結構あります。

「もし神経を取らなかったら、治療後に痛みがでたかもしれないので、きっとその時に治された先生は神経を先にとったのだと思いますよ。」その方の最初の状態を拝見していないうえに、自分が施した治療ではないために、この程度の後付けのご説明しか私にはできないのがいささか残念です。治された先生が先におこり得る可能性のことをすべてお伝えしておけば、こうした誤解はもしかしたら生まれなかったかもしれません。

究極のことを言うと物議をかもすので止めておきたいのですが、痛くなければ良い治療なのか、という議論に対しては私はノーと答えたいのです。歯の神経はなるべく残した方が、神経のない失活歯よりも絶対に丈夫で長持ちするからです。

現在のように根管治療(歯の根の神経をとったあとの治療)の技術がしっかりと確立されていなかった約50年くらい前には確実性のない、根の治療をするより抜歯してしまった方がいいのでという理由でどんどん抜歯されたという時代もあったようです。
現代になって根管治療の方法が確立されたとはいえ、まだまだ手間のかかる治療の一つであることに間違いありません。神経の治療は手間がかかる上に通院回数が長いので、だめそうならとっとと抜歯してインプラント(人工歯根)にして仕切りなおしてしまおう、といった欧米流の考え方も一部の先生にはまだ多く残っています。

特に欧米は訴訟社会であるがゆえに、治したものがいずれだめになった場合訴訟になるのを恐れて、予後が不安定な歯に関しては、無理して手間かけた治療をせずに抜歯してしまうといった考え方をする風潮が強いと聞きます。あなたは自分の歯が健康保険で治療されるときに、こうしたいろいろな考え方のもと、その先生と話し合ってからいちいちどうしてほしいといったことを長々と話し合ったことなどあまりなかったのではないでしょうか。

また、歯周病でもうグラグラになってしまって、先のない状態ではありますが抜けるまで残しておいてください…といわれれば抜くわけにはいきません。何度もそこが腫れてきても、薬だけ出してほしい…といわれればそうするしかないのです。
これでいいのだろうか…といった葛藤は常に付きまといます。

教科書通りに治すことが常に正しいのだとすれば、答えは本当に簡単です。教科書的にはこうと決まっていますからそうしたいと思いますがもしあなたが嫌というなら当院では治療をできません…となってしまいます。実際そうはしていませんが。

最初の話に戻りますが、先生の考える最良の方法でお願いします、健康保険の範囲で…と言われた場合、どう考えればよいのか。

虫歯治療の場合、その方がとてもかむ力が強く歯ぎしりも強い方でまだ20代、30代の若い方であれば最初から多く削ってかぶせ物にしてしまうことも考えられます。しかし80歳すぎておられる方に対しては、詰めるだけの治療で何とかしのいでおくという治療も考えられます。

同じような葛藤が抜歯された後の場面でも登場します。そこでの選択も年齢を考慮に入れることがしばしばあります。たとえば、あなたの前歯が一本折れて抜歯されてしまった場合、もし30代であるならブリッジと言って両隣の歯を削ってかぶせ物をしてつなぐ補綴物にはしないで、インプラントという選択肢が最近では最初の選択だと思います。しかしながら80代以降の方に対しては外科的な手段はあまり勧められません。そこはあえて義歯で補うとか、やはり健全な両脇の歯を削ってブリッジをするとかの選択肢になろうかと思います。たとえ30代の方であっても、健康保険の範囲に限定されるともなればインプラントの選択は当然あり得ません。

私の最近の判断基準としては、今までの経験上から自分ならこうしてほしいと考えられる方法をまず最初にご提示するようにしています。
要するに、自分が同じ立場だったらどういった治療を選択しているほしいだろうか…といった基準です。勿論その選択が必ずしも正しいかどうかはわかりませんが、少なくとも一つの基準にはなっていると思います。そのバックボーンには過去の自分の治療させていただいた多くの患者さんの治療、そして結果それがどうなってきたかといったいろいろな経験上のレシピがあるからです。

ですので、当然その方の年齢や口腔内状況、性格、骨格形態、男女差、生活環境、経済状態などいろいろな因子を勘案したうえでのご提案となります。その辺のご説明は医療面談と言って治療前にどうしても必要となるのはご理解いただけると思います。

治療が始まる前にこういったいろいろなことをお話ししていると、たとえそれが一本の虫歯治療であったとしてもあっという間にその方の治療時間の持ち時間は消化してしまうことがあるので、たいてい当日は現状の把握と概要のご説明にとどまり、当院での歯科治療の説明が書いてあります小冊子をお持ちかえりいただいております。それを次回までにお読みいただいたうえで、やっと治療が次回から開始されるといったことがよくあります。

ですので、皆さんも、ただ口を開けて、とっとと治してもらえればいいんだとは決しておもわないで、ご自分の長期的に安定した口腔内の状態をどうしたいのかということまで考えて、治療に参加していただけると良いと思います。私どものスタイルは少なくともそうありたいのです。そういった前向きの方に対しては、治療する側としてのやりがいや一生懸命さ加減が、多少とも違ってくるというのが人情といえましょう。

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