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よくかみ合わせが良いとか悪いとか言われます。突然ですがここであなたに3つの質問です。

  1. 朝起きた時に、あごが疲れた感じがする。あるいはどこか特定の歯が浮いた感じがする。
  2. 食事の後にあごが疲れやすかったり痛くなることがある。
  3. 起きた姿勢でどこにも力を入れないで上下そっと閉じたときに最初に前歯があたりすぎる。

かみ合わせが悪い人は顎関節症になりやすいと言われますが、必ずしも噛み合わせがすべてではないことも最近分かってきています。かみ合わせが問題なくても、日中の過度の食いしばりや舌の押し付けなどの習癖、あるいは頬杖や足組みなど態癖とよばれることなども顎関節症と間接的にリンクしていることも分かってきたからです。


顎の動きのなかでの前歯と奥歯

しかし先ほどの3つの質問で、どれか一つでもYesという答の方は、もしかしたら前歯と奥歯の連携がうまく取れていない可能性があります。我々の業界用語でいうところの「干渉がある噛み合わせ」ということになります。わかりやすくご説明しましょう。
人は物をかんで食事をする際、最初に下の顎をほんの少し前に出してがぶりときて、その後奥歯でもぐもぐもぐ、とした後に、ごくりとのみこむ…この繰り返しです。食べるときには下のあごを少しだけ無意識に前に出して(約1-1.5㎜位)かみつきますのでこの時に初めて前歯が当たりはじめます。また、当たってくれていないとかみきれないのです。でも筋肉位といって、無意識にすっと噛んだ時に、すでに前歯が先に当たってしまっている噛み合わせでは前歯の当たりすぎなのです。この前後この遊びの部分を、下顎安静位と呼んでいます。

起きた状態で上下の歯を噛み合わせた状態で下あごを前にスライドさせるとほんの少しだけ前に出した時に初めて前歯の裏側が当たり始めるのが正しい噛み合わせです。

一方、側方に動かしたとき、例えば顎を上下歯をあわせた状態で右にずるずると動かしたときには最初に犬歯が当たっていなくてはなりません。これは以前のブログで犬歯の重要性のところでもお話ししています。
つまり前歯と奥歯の連携と役割がそれぞれにあるのです。あごを中心としたこの咀嚼サイクルはピストン運動のような結構力強い反復運動です。咀嚼サイクルの中では、前歯や犬歯はかみったりする以外の時にはいちいち接触させて食べてはいません。そこの位置に犬歯がある、前歯があるということをすでに無意識に脳が理解しているために、早い咀嚼運動の中でも邪魔にならずに前歯と犬歯が存在できており、なおかつ、その存在自体が咀嚼サイクルを制御しているということになるのです。


前歯の役割奥歯の役割が顎関節と影響

細かい咀嚼サイクルの中に、うまく前歯と奥歯の連携が取れた位置にご自分の歯が並んでいてくれないと、その歯は噛むたびに他の歯より必ず疲労し始めます。結果、歯の弱い人は、その歯に「干渉」が強くなってくるということになります。「調和」でなく干渉しているのです。

噛むたびに、食いしばるたびに、少しばかりの干渉が持続的に続くと、その歯が移動してぐらぐらになったり、細かいキズができてそこから虫歯になったり、場合によっては、顎の方が痛くなったりもするわけです。

歯列矯正というと、よく出っ歯だから治したい、受け口を治したいとか、乱杭歯を治したい、とかといった見た目的なところに目が行きがちですが、実は基本的には奥歯と前歯の連携を整えて、その人に合わせた咀嚼サイクルの中に、干渉のおきない歯を並べる作業のことなのです。

 


個々人の顎の解剖学的形態は歯の角度とリンクしている2009年 武井、佐藤らの研究による
臼歯に向けて歯の咬合面角度がフラットになっていくことから順次誘導咬合と呼ばれている

また虫歯や歯周病で特定の歯がだめになってしまった場合、基本的にはその痛い歯やダメになった歯を治療するのは当然でしょうが、本当は全体のそういった奥歯と前部の連携を再確認して、干渉がないかというところまで咬合を考えて総合的に治療することがとても重要ではあります。

そうした治療計画の場合、結局はまず矯正治療が必要となるケースがたくさんあるのも事実です。現実的には治療費用や期間などの壁で皆さんが矯正治療をお受けになれるわけではないところも課題とも言えます。補綴的矯正と言って、歯を削り倒してかぶせ物で形を整えていく方法もありますが、基本的には歯そのものにかなりの侵襲を加えることになるのであまりお勧めできる方法ではないです。

機能的なものは美しい…とよく工業デザインの世界では言われてきましたが、人の咬合についてもそれは全く同じといえましょう。

当院で行っている歯列矯正や大掛かりな義歯を製作する際、あらかじめ顎機能精密検査がまず必要となるのはそのためです。顎機能精密検査とは、その方のあごの解剖学的な上下の関係と角度、さらには動かしたときの機能的な運動状態、そして干渉の有無などを多角的に判断してその方の咀嚼サイクルには本来どのように歯が並んでいると安定して機能していけるのか、といったことがこれによりわかります。

医科の分野で大きなオペをする際は、必ずと言っていいほどいろいろな検査をして、初めて方針を立てて手術をするのに、なぜ歯科の分野ではかぶせ物や最終義歯の種類の説明ばかりに目が向いてしまうのか。また見た目の部分だけを整えようとする傾向があるのか。残念ながらそうした咬合による干渉の原因などから話をしていては、本質的に治すということが、とても長い作業となってしまい、治療費用や期間から患者さんの側で無理だと諦められてしまう、などとの葛藤もあるからだと思います。

皆さんはご自身で、どこまで介入してほしいのか、どうしたいのかをしっかりと担当の先生とお話しされてから、いろいろな治療が進んでいくべきでしょう。これから先の人生の中で、どうすれば安定した状態を長期間維持できるかを一緒に考えていける先生が見つけられるとよいですね。

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